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高松高等裁判所 昭和63年(ネ)350号 判決

主文

一  原判決中被控訴人坂口安司に関する部分を取り消す。

1  被控訴人坂口安司は各控訴人に対し、各六二万九五〇八円ずつ及び内五七万九五〇八円ずつに対する昭和六一年一月七日から、内五万円ずつに対する本裁判確定の日から、各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人らの被控訴人坂口安司に対するその余の請求(当審で拡張した部分を含む。)を棄却する。

二  被控訴人坂口錦司に対する本件控訴及び当審で拡張した請求を棄却する。

三  控訴人らと被控訴人坂口安司との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じて五分し、その四を控訴人らの、その一を被控訴人坂口安司の各負担とし、控訴人らと被控訴人坂口錦司との間の控訴費用は控訴人らの負担とする。

四  この判決は、主文第一項1につき、各五万円ずつに対する本裁判確定の日から年五分の割合による金員を支払部分を除いて、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは各控訴人に対し、連帯(不真正)して、四四四四万一一四四円及び内四〇七四万一一四四円に対する昭和六一年一月七日から、内三七〇万に対する本裁判確定の日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(当審で請求を拡張した。)

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(四)  第(二)項につき仮執行の宣言

2  被控訴人ら

(一)  本件訴訟を棄却する。

(二)  当審で拡張した請求を棄却する。

(三)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者双方の事実に関する主張は、次のとおり改めるほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

原判決二枚目表七行目の「(」から「)」までを削り、同末行目から同裏一行目にかけて「本件事故現場」を「本件交差点」と同裏六行目「(」から同七行目終りまでを「(以下「英二」ともいう。昭和三九年四月二九日生、当時二一歳)」と、それぞれ改め、同九行目「前方」から同一〇行目「過失により、」までを削り、同三枚目表一行目「衝突」を「を接触」と、同二行目「死亡した。」を「同日午後一一時五分に病院において死亡するに至つた(以下「本件事故」という。)。」と、同四行目「被告安司は、前方を注視せず加害車を運転した」を次のとおり、それぞれ改める。「被控訴人安司には、前方の安全確認を怠つた過失がある。本件交差点の信号は、被控訴人安司の進行方向である西方から東方宇野駅への直進と、東方から北西の岡山への右折とは、同時に作動し、被控訴人安司が本件交差点に差し掛かつた時はいずれも青信号であり、被控訴人安司は本件交差点に進入する直前に本件交差点内を東方から右折した自動車を目撃しそれに続く郵便車が本件交差点内で一時停止し、被控訴人安司運転の直進車の通過を待つ態勢を取つたのを見たのであるから、郵便車の後続車が郵便車を追い越して右折することも予測できたもので、右折車がないかどうか各自動車の動向につき前方を注視し、本件交差点内を進行すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。右」

同三枚目表一〇行目「法」の次に「(以下「自賠法」という。)」を加え、同一一行目冒頭から同裏一行目終りまでを削り、同裏二行目「4」を「3」と、同四行目「六六三〇万九〇八四円」を「七三九七万〇九一九円」と、同末行目「四八九万四一〇〇円」を「五四五万九六〇〇円」と、同四枚目表九行目冒頭から同一〇行目終りまでを

「5,459,600×(1-0.4)×22.5813=73,970,919」

と、それぞれ改め、同四枚目裏三行目「原告ら」を、「各控訴人」と、同四行目「二五〇万円」を「一二五万円ずつ」と、それぞれ改め、同六行目「支出し」の次に「各控訴人らはその二分の一の一二五万円ずつ負担し」を加え、同五枚目表三行目冒頭から同裏九行目終りまでを次のとおり改める。

「 (三) 控訴人義廣は英二の父、同春代はその母として法定相続分に従い右(一)の英二の損害賠償請求権合計九三九七万〇九一九円の二分の一の四六九八万五四五九円ずつを相続により取得し、右控訴人固有の損害各九九五万円ずつを合計すると、各控訴人の取得額は五六九三万五四五九円となる。

4 控訴人らは自賠責保険より合計二四九八万八六三〇円の支払を受けたので、各控訴人の前記損害のうちその二分の一の一二四九万四三一五円ずつその損害が填補され、各残額は四四四四万一一四四円となつた。

5 よつて、各控訴人は被控訴人らに対し、各自(不真正連帯)四四四四万一一四四円ずつ及び内四〇七四万一一四四円ずつに対する不法行為後の昭和六一年一月七日(本件事故当日)から、内三七〇万円ずつに対する本裁判確定の日から、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

同六枚目表二行目終りに続き次のとおり加える。

「被控訴人安司は、本件交差点に近づき直進方向の信号が赤で停止すべく減速中であつたところ、約四〇メートル手前で青信号となり、ゆつくり加速しながら交差点に進入したが、進入直前に対向車一台が本件交差点内で右折し、後続の郵便車が本件交差点内で一時停止して被控訴人安司運転の直進車の通過を待つ態勢を取つたのを見て、安全に直進できることを確認の上、本件交差点に進入したものであり、被控訴人安司に過失はない。ところが、英二は、被控訴人安司の位置から見通しのできない郵便車の物陰から、当然転倒しながら飛び出してきて、被控訴人安司運転の自動車に接触したものである。」

同七枚目表二行目「のであり、」の次に「その過失割合は英二を七割、被控訴人安司を三割とみるべきで、」を加える。

三  証拠関係は、本件記録中の原審及び当審における書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一  被控訴人安司が昭和六一年一月七日午後七時一二分ころ普通貨物自動車を運転し、岡山県玉野市宇野二丁目一七番二六号先国道三〇号線交差点(本件交差点)上を西方から東方宇野駅に向い直進中、東方から本件交差点内で北西の岡山方面に向い右折進行中の英二(昭和三九年四月二九日生)運転の原動機付自転車と接触し、英二に脳挫傷等の傷害を与え、同日午後一一時五分病院において死亡させるに至つたこと(本件事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二1  各成立に争いのない甲第一ないし第三、第五号証、乙第一ないし第三号証、原本の存在と成立に争いのない甲第四号証、原審証人内田良昭の証言、原審控訴人吉田義廣、原審及び当審被控訴人坂口安司各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人安司は、加害者を運転し本件交差点に差し掛かつた際、交通信号が直進方向が青信号であることを確認し、本件交差点内を一台の自動車が右折し、後続の郵便車が右折のため本件交差点内で一時停止し被控訴人安司運転の自動車が直進し通過するのを待機する態勢にあることをみて、前方を安全に進行できるものと考えて進行した。しかし、郵便車の後続車がさらに右折するとは考えず、その物陰の後続車の動向には注意せず、本件交差点に進入し進行した。

(二)  被控訴人安司は、本件交差点の中央付近に進行した時、郵便車の後方から英二運転の原動機付自転車が右折進行して来たが、これに気付かず、自己の自動車の右側ドア外側下部付近及び後部車輪を支えるバネ付近を、原動機付自転車右側前部付近に接触させて、英二を転倒させ、その接触音で事故が起きたことを知つた。

(三)  英二は、東方から岡山に向い本件交差点内で右折すべくこれに進入したが、右折信号も青信号のため、一時停止中の郵便車の左横を通つて右折進行したところ、折からの降雨により濡れていた路面を横滑りするような状態で、被控訴人安司運転の自動車と前記(二)のように接触した。

以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、本件交差点内では、被控訴人安司の進行方向である西方から東方宇野駅方面への直進も、英二の進行方向である東方から北西の岡山方面への右折も、ともに青信号で進行することができるが、西方から東方への直進の方が優先順位であり、右折車はその直進を妨害することができず、直進車がないときに右折することができるものである。被控訴人安司は、本件交差点に進入する際に、本件交差点内で右折する自動車を見ており、その後続車の郵便車が右折するため直進車の通過を待ち一時停止の態勢にあつたが、被控訴人安司からは郵便車の物陰になり見通しのできないところから郵便車を追い越して右折する車両があることも十分に予測されるところであるから、郵便車ばかりではなく後続の右折車の動静に注意し、前方の安全を確認して本件交差点内を進行すべき注意義務がある。被控訴人安司は郵便車が直進車の通過を待ち一時停止していることを確認したけれども、それだけでは十分に前方注視をしたものとはいえず、右注意義務を怠つた過失があるというべきである。

しかし、他方、前車の郵便車が直進車の通過を待つていたのであるから、後続車である英二としては、これに習い、一時停止をして郵便車に次いで右折を開始すべきであり、又、その前に右折するときは、対向車を見通すことのできる郵便車の横付近まで進行して一時停止し、直進車の有無状況を注視し、右折の安全を確認の上、右折すべき注意義務があり、英二には、右注意義務を怠つた過失がある。

本件事故は被控訴人安司及び英二の右各過失が競合して生じたものであり、その割合は被控訴人安司が四〇パーセント、英二が六〇パーセントであるとみるのが相当である。

2  従つて、被控訴人安司は右過失割合に応じ、英二及び控訴人らの被つた損害を賠償する義務を負う。

三  本件事故当時被控訴人安司が運転していた自動車が被控訴人錦司の所有名義であることは当事者間に争いがないが、原審被控訴人坂口安司、当審被控訴人坂口錦司各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

被控訴人安司が本件事故当時運転していた自動車は、父である同錦司が右自動車を買う際代金を代わつて支払つた関係で、その登録上の所有者名義を同錦司としている(同錦司としては同安司がその代金を完済した時に名義を同安司に移転したいと考えている。)が、その実質上の所有者は同安司であり、その自動車の登録上の使用者は同安司で、同安司は本件事故当時同錦司と別居して勤務先の三原石油店の寮に居住し(同錦司の住所とは自動車で約二時間を要する。)、右自動車を寮の敷地内で保管し、その車庫に関する証明は三原石油店で受け、専ら同安司が香川大学への通学及び三原石油店への通勤に使用し、その維持費用、強制保険及びニユーインデイア(保険会社)との交通事故損害賠償に関する任意保険契約は被控訴人安司が自ら契約し、その各保険料も自己の収入から支払つている。

以上のとおり認められる。右事実によると、被控訴人錦司は、被控訴人安司の右自動車の運行を支配しておらず、運行利益も得ていないのであるから、自賠法三条の運行供用者に当たらず、同条の損害賠償責任を負うものではない。従つて、控訴人の被控訴人錦司に対する本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四  損害

1  英二の損害

(一)  逸失利益

英二は本件事故当時二一歳九か月で、原審控訴人吉田義廣本人尋問の結果によると、本件事故当時岡山理科大学一年であつたことが認められ、約三年後の平成元年三月大学を卒業し就職できたものとみて、就労可能年数は右就職時から六七歳まで四二年、その収入は就職可能時に近い昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表新大卒二五―二九歳三六八万八六〇〇円、生計費は実額統計値をも考慮し四〇パーセントを控除し、新ホフマン方式により中間利息を控除後の現在額は四五三六万九一一六円(3,688,600×(1-0.4)×(23.2307-2.7310)=45,369,116)となる。

(二)  慰謝料

前記認定の各事実によると、英二の死亡までの精神的な苦痛に対する慰謝料は、一二〇〇万円とするのが相当である。

2  控訴人らの損害

(一)  原審控訴人吉田義廣本人尋問の結果によると、控訴人らは共同して(割合は二分の一)英二の葬儀及び法事費用一〇〇万円、墓石及び墓地使用料一五〇万円合計二五〇万円を支出したことが認められるが、内二〇〇万円(各一〇〇万円ずつ)が通常の費用とみるべきである。

(二)  慰謝料

原審控訴人吉田義廣本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、各控訴人は英二の死亡によりその父、母として多大の精神的な苦痛を被つたことが認められ、右各精神的な苦痛に対する慰謝料としては、各三〇〇万円ずつ(合計六〇〇万円)とするのが相当である。

3  過失相殺

右各損害英二の逸失利益四五三六万九一一六円、慰謝料一二〇〇万円、控訴人らの損害の葬儀費用等計二〇〇万円、慰謝料計六〇〇万円、合計六五三六万九一一六円につき、英二の前記過失割合六〇パーセントを相殺して控除すると、二六一四万七六四六円となる。

4  損害の填補

控訴人らが本件事故による損害賠償として、自賠責保険金二四九八万八六三〇円の支払いを受けていることは当事者間に争いがなく、これを損害賠償額に填補した後の残額は、一一五万九〇一六円となる。

5  弁護士費用

被控訴人安司が負担すべき弁護士費用は、認容額の点を考慮すると、一〇万円(各控訴人五万円ずつ)とするのが相当である。

6  成立に争いのない甲第三号証、原審控訴人吉田義廣本人尋問の結果を総合すると、英二の死亡により、控訴人義廣が父、同春代が母として、法定相続分各二分の一ずつに従い相続したことが認められ、控訴人らが右1の(一)、(二)の損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したものであり、これに各控訴人のその余の右各損害を合計し右保険金の填補後の各控訴人の残額は六二万九五〇八円ずつとなる。

五  以上のとおりであるから、控訴人らの被控訴人安司に対する本訴請求中、同被控訴人は、各控訴人に対し、本件事故による損害賠償残額として、各六二万九五〇八円ずつ及び内各五七万九五〇八円ずつに対する不法行為以後の昭和六一年一月七日から、内各五万円ずつに対する不法行為の日以後の本裁判確定の日から、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負い、控訴人らの本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却すべきところ、これと異なる原判決主文中被控訴人安司に関する部分は相当ではないのでこれを取り消し、右説示のとおり一部を認容しその余を棄却することとし、控訴人らの本訴請求中被控訴人錦司に対する請求は理由がないので棄却すべきところ、これと同旨の原判決主文中被控訴人錦司に関する部分は相当であり、同被控訴人に対する本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴人が当審において拡張した請求部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条の規定により(一部、内五万円ずつに対する本裁判確定の日から年五分の割合による金員支払部分の仮執行宣言は、理由がないのでこれを付さない。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 高木積夫 孕石孟則 高橋文仲)

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